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2023.07.25記事

『メルクとモデルナが、ネオ抗原mRNAがんワクチンの第三相試験を開始』

メルクとモデルナは、モデルナのネオ抗原※1mRNAがんワクチン「mRNA-4157※2」とメルクの免疫チェックポイント阻害抗体「キイトルーダ」を併用する第三相試験を本年8月1日より開始することを、臨床試験に関する公的なデータベースClinicalTrials.govに投稿しました。この第三相試験(V940-001試験)は、本年4月の米国がん学会で多くの注目を集めた同じ2剤併用の第二相試験KEYNOTE-942試験に続く試験です。

ネオ抗原mRNAがんワクチンとして検証的な第三相に進むのは、本剤が初めてのケースです。また、これまでに多くのがんワクチンが第三試験に進みましたが成功した試験はなく、FDAから承認を受けた薬剤もありません。このため、以下に示しますKEYNOTE-942試験の結果は、世界中の免疫療法の研究者および製薬企業に多大なインパクトを与え、それに続くV940-001試験にも大きな注目が集まっています。

KEYNOTE-942試験の米国がん学会における発表内容は後述しますが、概略は次の通りです。157例の切除可能メラノーマ患者が登録され、キイトルーダ単独群とmRNA-4157併用群で効果が比較検討されました。その結果、併用群ではキイトルーダ単独群に対して44%再発或いは死亡のリスクが低減されていました。今回開始されるV940-001試験は、ステージII以上の再発リスクの高い術後メラノーマ患者(1089例を登録予定)を対象に、キイトルーダを対照薬として、mRNA-4157(新たにV940と命名されました)をキイトルーダと併用することによる上乗せ効果を検証する試験で、主要評価項目はRecurrence Free Survival(無再発生存期間)とされています。V940-001試験は6年後の2029年10月に終了予定とされており、メルクが中間解析を実施するか否かは現時点では開示されていません

※1 ネオ抗原:がん細胞特有の遺伝子変異などにより新たに生じた抗原であり、がん細胞にのみ生じ正常細胞には生じない。がん患者ごとに生じているネオ抗原は異なり、また1人のがん患者には多様なネオ抗原が生じている。

※2 mRNA-4157(V940):がんネオ抗原mRNAワクチンで、個々の患者から得た腫瘍をNGS※3による遺伝子変異プロファイリングにかけ、AIで予測された複数のネオ抗原ペプチドに対するmRNAを合成後に混合し、脂質ナノ粒子製剤として投与されます。

※3 NGS:次世代シーケンシングのこと。数百万から数十億もの膨大なシーケンシング反応(DNA配列決定)を同時並行して実行できる技術です。

以下米国がん学会より

CTPL01 – Harnessing the Immune System in the Clinic: CT001 – A personalized cancer vaccine, mRNA-4157, combined with pembrolizumab versus pembrolizumab in patients with resected high-risk melanoma: Efficacy and safety results from the randomized, open-label Phase 2 mRNA-4157-P201/Keynote-942 trial (Jeffrey S. Weber, NYU Langone Medical Center, New York, NY)

モデルナのネオ抗原 mRNAワクチンmRNA-4157と抗PD-1抗体キイトルーダとの悪性メラノーマに対する術後補助療法に関するランダム化比較Phase II試験の結果が報告された。ネオ抗原がんワクチンについては、共通抗原を標的とするがんワクチンに対する優位性が、これまでに実施された種々のPhase I試験の結果から、抗原特異的なT細胞誘導、Antigen spreadingの可能性、予備的な抗腫瘍効果等の観点で検証されて来た経緯がある。 

mRNA-4157のfeasibility、抗原特異的なCD8陽性T細胞誘導および抗腫瘍効果の兆し(単剤およびPD-1抗体併用)については既に学会報告されている。再発リスクが高いメラノーマに対する補助治療としては、Landmark TrialであるKEYNOTE-054の結果から、抗PD-1抗体キイトルーダが標準治療となっていることから、本Phase IIランダム化試験はキイトルーダ とmRNA-4157併用とキイトルーダ単剤とを2:1割り付けで比較するデザインを採用。Phase II試験と言うことで検出力を80%に設定し、仮説としてハザード比-0.50でRecurrence Free Survival(無再発生存期間)を延長するという設定。合計224症例がスクリーニングに参加し、67例が脱落し157例が107対50で割り付けられた。

登録された患者全体に投与されたネオ抗原の数は9-34であり、91%が34種類のネオ抗原を投与された。両群での患者のバランスは比較的良好であったが、PD-L1陽性およびTumor Mutational Burden数においては、やや実験治療群で高い傾向であった。安全性については両群で大きな差異はないものの、mRNA-4157投与群においてワクチン投与による副作用として倦怠感、発熱、頭痛などが認められており、Post COVID-19 mRNA ワクチン時代において、これがどこまでnegativeな意味を持つかは今後の検証が必要だろう。

有効性に関しては、併用群のRFSが80週時点で76.4%であるのに対して標準治療群では62.2%であり、ハザード比0.56、P=0.0266と併用群が優位に優れている結果となった。但し、PFSの信頼区間はサンプルサイズの問題もあり、0.309-1.017とかなり広く、また途中経過とは言えC-M曲線が後半では交わっており、更なるfollow-upが必要である。

PD-L1陽性および陰性を分けたサブセット解析では、キイトルーダ単剤がPD-L1発現が高い方が明らかに有効性が髙い結果となることと比べて、実験治療群ではその差が殆ど存在しないことから、ネオ抗原mRNAワクチンによるT細胞免疫誘導がPD-L1発現を高める可能性も考えられるが、データがある訳ではないので、現時点では想像に過ぎない。次のステップとしては、この試験でdistant metastasis-free survivalおよびBRAF変異の有効性への影響を検証する予定であり、更に本併用試験は既にPhase III試験に進むことが決定しており、本併用は既にFDAのBreakthrough therapy designationおよびEMA Prime Designationを獲得しており、その注目度は非常に高い。