組織再生
1.再生医療とは
病気やけが、また加齢により機能に障害が生じた組織、臓器の再生を目的とする医療で、新たな創薬の方向性として注目度の高い分野である。再生医療のmodalityとしてタンパク質および遺伝子(DNAやウイルスベクター)を用いる治療が数多く試みられているが、満足が得られるレベルに至っているとは言い難い。
2.mRNA医薬による組織再生
mRNAはゲノムDNAの遺伝情報をタンパク質に翻訳する為の短期的な設計図であり、これを医療に応用したmRNA医薬はCOVID-19 mRNAワクチンにより大きな注目を集め、2023年度のノーベル医学・生理学賞の受賞と言う形で世界的な評価を受けることとなった。
ノーベル賞の対象となったのは、mRNAを構成する天然型の核酸を修飾核酸に変換する技術であり、COVID-19ワクチンにおいてはウリジンを1-メチルシュードウリジンに変換することにより、mRNAの免疫源性が著しい低下と、タンパク質への翻訳が飛躍的に向上した。この技術はmRNAワクチンだけでなく、mRNA医薬に無限の可能性を与えたと言っても過言ではなく、幅広い分野でmRNA医薬の開発が進められている。
2013年Harvard大のZangiらはマウス心筋梗塞モデルを用いて、血管新生を促進する増殖因子であるVEGFのmRNA(上述の修飾RNA)を直接心臓内投与することにより、マウスの心筋前駆細胞が分化・増殖させることで心機能を回復させ、延命効果を示すことを報告した。
彼らは、遺伝子治療の場合VEGFの作用が過剰となり、却って病態を悪化させること示し、mRNAの治療効果が明らかに優れることを証明した。その後、VEGF mRNAはAZD-8601としてAstraZenecaとModernaが共同で開発し、Ⅱ型糖尿病患者を対象としたFirst-in-human Phase I試験での安全性を確認後、冠動脈バイパス術を受けた心筋梗塞患者を対象としたPhase II試験に進み、mRNAを直接投与することにより、大きな副作用なく心拍出量の改善傾向が見られた結果を報告、mRNA医薬の再生医療分野への応用についてのPOCを世界に先駆けて達成した。
その後、残念ながらAZD-8601の臨床開発は2023年に中断されることとなったが、ModernaはAZD-8601に代わって急性心不全治療薬としてLNPで製剤化relaxin(mRNA-1804)の非臨床開発を進めており、Phase I試験入りを目指している。なお、組換え型relaxinタンパク質 Serelaxin(Novartis)は、6,500例のランダム化Phase III試験において有意な心不全の改善を示さなかったことが2019年に報告されている。
再生医療分野でmRNA治療薬の臨床開発を進めている企業、標的分子、DDS、疾患等を以下に列挙する。